キス街/水埜青磁

執筆者:水埜青磁
リプレイ。リ・プレイ。妙に青っぽい匂いを膝裏からのぼらせて、きみは立つ。弱起する、アウフタクトを待てなかった未明の空気たちよ。我々は透明でない。我々は、未開である。未明にはもうすでに居ない。あなた方は誘拐をこころみる。このキスの速い街(たいていの人間はキスまち、と舌を恥としながら、暗さにブレて口蓋を打つのだ)から、我々の孤独を盗みだそうとする。あなた方はみる。川の臭く泡立つ、シリアスな朝を、五月の薔薇がいつまでも枯れる気配すら見せない図々しいバルコニー、そしてその奥から曲線を緩く描きながら香るベーコンの果てを。
あなた方はみることもできる。

信仰するバウンダリーがいつか、お祈りのポーズを脱走して好きなカーテンのふくらみをえらべますよう。
我々はプレイする。
この街の名前は、さして問題ではないのだ。

氷砂糖の浜に汀を呼びつける
地面らがさみしがるから桃を踏む龍が泣く 恥ずかしい看板だね
(やさしさとちがうものなどここには)
硝子は御伽話の写し身   もう首根に岸を飼うべきかどうか……等速で狂いだす
行儀の良い蓮だ、敬意を

忘れること、
それはただ忌々しくいちばん近くに自分がいると知ることだった。

寝息は蒸気のまま、私は自分の寝言に挙手して返事をする。川がまた美しい。薄紙の舟で静かに沈んで、なんにもなかったみたいに腕を突き上げて、ゆーっくり、予測できないかんじのピースをしてやる。氵のフリルを見せつけて。

鈍ることって、ひどくセクシーだと思わない?

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